自宅と賃貸を一緒にしたビジネスモデル “賃貸併用住宅” が脚光を浴びていますが、果たしてどのような切り分けパターンと間取りが存在するのでしょうか。間取りというのは、賃貸併用住宅に踏み切ってよかったと思えるか、こんなはずじゃなかったと後悔するかの分岐点となり得える項目です。
それほど重要なテーマですので、今回のコラムではまず大まかな間取りのタイプ、すなわち切り分けパターンとそれぞれの特長を紹介し、さらに生活動線に配慮した具体的な間取り図を紹介します。
間取りの重要性はデータが証明している
そもそも間取りと言ってもそんなに大切なのかと疑問に思われる方は少なくありません。株式会社リクルートの2020年度 賃貸契約者動向調査(首都圏)では、全体の約32%の人が間取りを決め手として入居しています。
この統計データの考察のポイントは次の2つです。
- 「間取り」を決め手とした人の数がコロナ前の19年度と比較して2.3ポイント増加
- 「初期費用」「通勤・通学時間」が19年度と比較して5ポイント以上減少
逆にやむを得ずあきらめた項目を見ても面白い事実がわかります。
- 「間取り」「最寄駅からの時間」「設備・仕様」「生活利便性」が4ポイント以上減少
これはつまり、コロナの影響でホームオフィスや遠隔授業が進み、立地よりも自宅での生活の質に決め手の比重が移り始めたということです。コロナ前から間取りは立地や家賃に続いて大事な要素と捉えられていたので、ここをおざなりにしてしまうと、賃貸併用住宅の運営に暗雲が立ち込めてしまうでしょう。
大まかな間取りの種類、切り分けパターン
賃貸併用住宅の切り分けのパターンはそれほど多くありません。基本的には縦で割るか横で割るか、そして部分的に割る階を作るかの3パターンです。
何階建てにしろ、よくあるのは横割りと縦割りで、部分割りは特別なこだわりがある場合に採用されるケースが多いです。また、賃貸併用住宅の中でも建物全体の何パーセントを賃貸部分にするかは人それぞれです。
ただし賃貸部分の割合を50%以上にしてしまうと、住宅ローンが適応されなくなり、より金利の高い不動産投資ローンを組む必要がでてきます。不動産ローンは審査が厳しく、金利の積み重ねで支出も増えますので、半分を自宅にして住宅ローンを活用した賃貸併用住宅を選ぶ人が増えてきています。
横割りの特長
賃貸併用住宅を横割りにすると、賃貸部分を上の階にするか下の階にするか決めなければなりません。その際、次の特長を把握しておきましょう。
- 家賃相場は一階の相場が低く、上層階は高い
- 最上階は屋根裏収納や屋上を使える
- 一階は庭を使える
- 上下の生活音がトラブルになり得る
上の階と下の階ではそれぞれメリットとデメリットが異なります。自分がどちらに住みたいかという想いも当然あるでしょうが、賃貸物件としてどちらの方が集客しやすいかということも考えて決める必要があります。 賃貸併用住宅を建てられる土地を決めたら、その周辺にはどのような世帯が多く住んでいるのか、そして賃貸部分にはどういった人に住んでほしいかを考え、彼らにとって需要の高い方を賃貸として活用するのが得策です。
縦割りの特長
賃貸併用住宅を縦割りにすると、オーナーも借主も同じメリットとデメリットを共有することになります。
- 上下の騒音問題がない
- 壁部分の防音対策が必要
- 一階と最上階のメリットをオーナーも借主も得られる
例えばファミリー層をターゲットとする場合はこの縦割りが最適解でしょう。小さなお子さんが出してしまう足音などをゼロにすることはできません。横割りの場合、上の階に住めば下の階への配慮で気を使いますし、逆に自分が下に住めば上の階の音が気になるかもしれません。縦割りは、総合的に一軒家に一番近い感覚となりますので、デメリットが少ないです。
部分割りの特長
こういった特殊な間取りはレアケースで、管理が難しく、間取りの設計もより複雑になります。また、その特殊な構造から将来的に売却しなければならないとき、買い手が見つかりづらいというリスクがあります。
余程の事情がない限り、縦割りか横割りかのシンプルな間取りがよいでしょう。
結局どの間取り/切り分けパターンがベスト?
これはオーナーの生活スタイルや価値観により一つの答えは存在しません。ですが、総じて縦割りの間取りが両方のメリットを抑えつつ、騒音という問題点も防音対策を施すことで解消できるため、優秀な間取りではないでしょうか。
賃貸併用住宅の失敗例として一般的には、入居者の騒音や共有部分のプライバシーの侵害などが挙げられますが、それらも間取り次第で解決できるものが多く、だからこそ建てる前にそれぞれの特長を理解して戦略的に踏み切ることが肝要となります。
賃貸併用住宅の間取における重要なポイント
1)縦割りにして防音対策をすることで騒音問題を解消する
2)自宅部分と賃貸部分を50:50にして住宅ローンを使う
賃貸併用住宅の具体的な間取り図
さて、建物の切り分けパターンを把握したところで、具体的な間取り図を見てみましょう。今回は総合的に一番良いであろう縦割りを例に取り、賃貸併用住宅の間取りの例を紹介します。
上図の間取りの工夫は主に次の3つです。
- リビングなどの居住部をできるだけ隣接させない騒音対策
- 高い収納力
- 生活動線への配慮
住居の隣接部分は、長時間滞在することがない階段・玄関・お風呂場などを設置することで騒音問題を緩和できます。また、収納を多めに作ることで家具を買いそろえる負担を減らせます。
そして生活動線への配慮は極力妥協せずに設計しましょう。世の中には普通に考えたらあり得ないような間取りも存在します。実際、設計とは限られた土地で様々な条件がある中で行われます。ですから一般の人には思いつかないような制限が出てくるものです。
そういった逸脱した間取りをきちんと回避したのが上図の間取りです。自分が住む家だからという意識で自分が好きな間取りを主張するのもいいのですが、同時に賃貸でもあるのであまりにも特殊な構造にしたり、自分の感覚では許容範囲だからと根拠なしに進めるのもリスキーです。
よくある間取りの失敗例を紹介しますので、できるだけ避けるようにハウスメーカーや工務店と話し合ってください。
【間取りの失敗例】
- 洗濯機がベランダにある
- トイレが遠い
- 玄関からリビングが見える
- 浴室とリビングを隣り合わせにして入浴後の移動がしづらくなる
- 寝室の隣にトイレがあり、寝ている間に家族の使う音が気になる
- 収納が圧倒的に少ない
- 臭いの広がりと冷暖房非効率性を考えずリビング階段にした
- 玄関の目の前に階段を設置し、子供が帰宅後部屋へ直行(会話減)
- 直線階段にしたら想定より傾斜が急になって危ない
このような失敗例を排除し生活動線を考えた間取りにすることは、最強の空室対策のひとつとなるでしょう。