賃貸併用住宅は、マイホームを持ちながらも家賃収入をローン返済に充てられるという非常に優秀な不動産活用手段のひとつです。もちろん長所と短所が両方あり、例えば賃貸を併用しているため、普通のマイホームよりも自由度は下がり、不動産投資の成功事例ほど収益を生み出すわけではないため、 “どっちつかず” なポジションと捉えられることもあります。
一方で、不動産投資は年収や属性に条件が多く、とてもハードルが高い投資で、手を出せる人が少ないのも事実。賃貸併用住宅は、マイホームも欲しいし不動産投資や不動産活用にも興味がある!しかし、不動産投資ローンを受けることが叶わないという人にとって、最適解となり得るものです。
とは言え、建てれば儲かるといった甘い話は世の中にはなく、事前に勉強して準備を整えておくことが肝要となります。今回はそんな賃貸併用住宅を始めたい方のために、事前に絶対に知っておきたい失敗事例を5つ紹介します。
失敗1:賃貸適地ということを考えない
一番ありがちな失敗が、心構えとなります。賃貸併用住宅は住宅ローンを使って建てるため、自分の住宅の延長線上にある気がしてしまいますが、賃貸併用住宅を始める際はこれが“賃貸ビジネス“であることを明確に意識しておく必要があります。
他人に貸す分、建築費用や土地代が高くなるということがひとつ、そして如何に空室期間を作らないかということが重要です。そして、その空室期間を作らないということが決して簡単ではないことを認識しておく必要があります。
人が毎月それなりの家賃を払って住みたいと思える物件かどうかを確認するために、特に重要な下記3点を客観的に考えてみてください。
- 立地(小中学校、会社、病院など)
- 近隣の雰囲気(スーパーやコンビニの有無、治安)
- その地域にどういった世帯が多いか(ファミリー、単身者、学生など)
なお、国土交通省が発表する「賃貸住宅を選ぶときの理由」では、次の3項目が物件の決定を左右したとされています。
- 価格/家賃が適切だったから
- 住宅の立地環境が良かったから
- 住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから
ご自身が賃貸併用住宅を建てる場合、自分にとって最適なロケーションを探すだけでなく、ターゲットとなる借主にとって住みたいと思えるかどうかも必ず念頭に置きます。例えば立地をどこにするか考えるとき、「絶対に駅近!」と固執するのではなく、ターゲットがファミリー世帯であれば小学校への距離を重要視するなど、柔軟に想像するのが賢明です。
失敗2:原状回復コストの失念
大きな投資ということで事前に綿密な試算を立てるのが一般的ですが、その際に見落としがちなのが原状回復コストです。現状回復コストとはハウスクリーニングや修繕のことです。普通は、居住者が生活する中で自然に発生する汚れや傷みは借主の負担ではなく、オーナー側の負担となります。
国土交通省が策定した原状回復におけるガイドラインでは次のように定義されています。
原状回復とは、賃借人の居住、仕様により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による消耗・毀損(きそん)を復旧すること
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
では、間取り別のハウスクリーニング費用はどの程度を想定しておけばよいのでしょうか?例えばファミリー向けの3LDKの場合で5万~8万円です。
この他にも床や壁紙の張替えは5年から10年のスパンで発生します。そしてキッチンや浴室といった水回りのリフォームコストにもお金がかかります。修繕費として試算に組み込み、積立ておくのが得策です。また試算時は、ハウスクリーニング費用も含め一旦ワーストケースで見ておく方がリスク回避できて安心できるでしょう。
失敗3:入居者からのクレームに対して心構えができていなかった
賃貸併用住宅のデメリットのひとつでもありますが、入居者が隣に住んでいることで直接クレームを言われる可能性は拭いきれません。仮に管理会社を挟んでいたとしても、たまたま顔を合わせたときにクレームを言われることはあります。ある程度このようなケースを頭の片隅に置おいておきましょう。
よくあるクレーム
- 騒音
- ゴミ出し
- 設備不良
もちろん入居者の性格にも依存しますが、子供や音楽などの騒音が最もクレームになりやすいです。ゴミ出しに関しては、入居者同士というより、近隣からのクレームです。入居者がルールを守らない場合、ご近所からオーナーへクレームが入るケースがあります。また、設備不良は例えばエアコンから冷風が出ない、電気がつかない、鍵が閉まらないなど多岐に渡ります。
管理会社を通していても、直接クレームが入る覚悟は持っておきましょう。
失敗4:空室期間ができてローンを負担
賃貸ビジネスに必ず付き纏うのが空室問題です。借主がいない期間は当然ながら家賃収入を得られないため、ローン返済は自己負担となります。元から2世帯分の土地と家を購入しているため、ローン返済額も必然的にマイホーム購入時より増えます。ずっと満室であることが当然だというマインドで賃貸併用住宅に踏み切ると失敗や後悔に繋がりかねませんし、仮に1~2ヵ月空室になっただけでも不安に駆られてしまうかもしれません。
大切なのは、そういった期間が生まれるリスクを認識しておくこと。そして空室にならないような工夫を予め用意し、空室期間を意図的に作らないことです。空室対策でできる工夫というのは多岐に渡ります。空室になりづらい物件作りの工夫と内見時の印象を良くする工夫を一部をここで紹介します。
工夫1:住宅のデザイン・設備にこだわる
まずはそもそもの商品である物件のデザインと設備にこだわります。すでに紹介した国土交通省のデータでもあったように、価格と立地に続いてデザインと設備が入居するかどうかの決断の要因になるため、少なくとも次の2つを意識しましょう。
- 時代に左右されない外装と内装のデザイン
- 高い収納力
時代に左右されないデザインというのが空室対策の鍵になります。10年後も古臭くならないデザインにすることで、入居率の低下を防げるからです。時代に左右されないデザインというと凄く難しいことのように思えますが、「欧州風」のデザインが良い例でしょう。ヨーロッパでは、古い物件の方が価値が上がり家賃が高くなるケースがあります。それは時間が経過しても古臭く見えないデザインだからです。
また高い収納力もポイントで、設備の中でも収納は特に重要視される項目のひとつです。加えて収納があることで家具の量を減らすことができます。これはデザイン性の統一に繋がると同時に、家具の上に溜まるホコリを掃除する手間も省けるため、衛生面と手間の両方で居住者にメリットが生まれます。
工夫2:少しでも気持ちよく内見してもらう
内見時の印象は非常に重要です。物件自体の魅力に加え、きめ細かな気配りができていれば、内見で好印象を植え付けるだけでなく、オーナーへの安心と信頼を与えることできます。
- スリッパを置く
- 空気をリフレッシュさせておく
- 照明を付けて天候に関わらず室内を明るくさせておく
工夫3:空室補償保険の検討
どうしても空室が不安という人は、空室補償保険を検討するのもひとつの手です。保険により条件は異なりますが、毎月保険料を払う代わりに空室期間は一定額の補償を受けられます。
失敗5:間取りのメリットとデメリットを把握していなかった
賃貸部分の間取りのメリットとデメリットは必ず事前に把握しておきましょう。間取りには概括的に横割りと縦割りがあります。横割りは、2階建ての住宅であれば例えば1Fはオーナー、2Fを賃貸部分と上下に分けることです。縦割りというのは文字通り家を縦に割るため、1Fと2Fの半分がオーナー居住区、そして残りの半分が賃貸となります。
横割りのメリットとデメリット
横割りは上の階と下の階という分け方をしますが、オーナーが上に住むか下に住むかでメリットとデメリットが変わってきます。
オーナーが下の際のメリット
- 庭を使うことができる
- 自分が発する足音などを気にする必要がない
- 上の階の方が賃貸市場では価値が高く、家賃を高めに設定できる
オーナーが下の際のデメリット
- 上の階の物音が気になる
- 小屋裏収納が使えない
オーナーが上の際のメリット
- 下の階の物音が気にならない
- 小屋裏収納が使える
- 窓からの見晴らしがよい
オーナーが上の際のデメリット
- 1F部分の家賃設定が比較的低くなる
- 一回に住みたいという人が統計的に少ないため空室リスクがやや高い
- 自分の足音や生活音が下の人の迷惑になるリスクがある
この他にも、もし屋上を作れば最上階に住む人のメリットになります。
縦割りのメリットとデメリット
メリット
- 上下の騒音問題が解決する
- 1Fと2Fのメリットをオーナーも借主も両方得られる
デメリット
- 壁部分の防音性を高める必要あり
どの間取りも一長一短ですが、子供がいる世帯の場合はどうしても騒音が発生するため、縦割りの方がメリットが大きいでしょう。
まとめ
よくある失敗を5つピックアップしましたが、いづれも事前に知っておくことで面食らうようなことがなくなり、スムーズに賃貸ビジネスを行えるはずです。空室を作らない工夫を専門家に相談しつつ質の高い賃貸併用住宅を作り上げれば、本当に家賃収入で家が一棟建ってしまうものです。マイホームを検討している方、不動産活用や不動産投資に興味がある方は賃貸併用住宅も視野に入れてみてはどうでしょうか。