不動産オーナー向け:収益アップに繋がるデザイン重視なリノベーション理論

小さなアパートの大家から大きなマンションのオーナーまで、すべての不動産投資家に共通する課題は、如何に自社の収益を向上させるかです。短期的な利益向上を図った家賃の値上げや、集客率を一時的に高めるための値下げは抜本的な解決策にはなりません。

目先の損得に惑わされ、鼻先の小銭を拾うのではなく、正しい建築知識に基づいた建物の価値の維持・向上を目指した、恒常的な収益・集客機能を構築してこそ、不動産投資の分野で成功するための王道とも言えます。そのためには、リノベ・リフォームの正しい知識を身に着けておくことこそが必要で、これらの勉強をなおざりにすると、典型的なジリ貧不動産投資家として負のスパイラルに陥ってしまいます。

今回のコラムでは、リノベーションがどのように収益アップに繋がるのか、そしてどの箇所をリノベすればコスパが良く、さらに効果的に収益アップを狙えるのか、長年の建築分野の専門知識を活かし、解説していきます。

リノベーションとリフォームの違い

よくリノベーションとリフォームが混同されがちですので、定義を先に把握しておきましょう。リノベーションとは、現在の内装や設備をグレードアップすることです。

つまり、ただ新しくするだけではなく、付加価値をつけ、より良い設備に変えることを意味します。ですから今のアパートやマンションの部屋に新しい機能や価値を追加すれば、それはリノベーションとなります。

対してリフォームは、古くなった箇所をただ新しくすること、元の状態に戻すということです。

リフォームはその家の住民が、投資的な意味合いを持たずに自身の生活の質を維持する目的で行いますが(古びたトイレやお風呂の改装)、リノベーションは不動産投資家が付加価値をつけ、元値以上の高い収益を得る目的で行われるケースが多くみられます。

リノベーションで収益アップができるケース

不動産物件の収益アップの方法はいくつかありますが、その中でもリノベーションは比較的手が出しやすく、堅実&効果的です。また、一度アップグレードされた付加価値は長年損なわれることがなく、長期的な賃貸ビジネスにも適した方法と言えるでしょう。

分かりやすい収益アップへの手段は、やはり家賃や販売価格の値上げです。ただしそれには建物の価値を上げる必要があります。海外と比べて日本は特に新築の入居希望者が多いです。それはやはり建物の耐久性を心配する人が多いのと、内装と設備の新しさを重視する人が多いからです。

東日本不動産流通機構のレポートでも明らかになっていますが、築年数が増えると自ずと成約率が下がり、リノベーションをして物件の価値の底上げが必要になります。

中古マンション成約率

勿論、闇雲にリノベをしても収益が向上するとは限りません。例えば、以下のようなケースですと、特にリノベによって収益の劇的な改善が見込みがあるとされています。

  1. 建物自体の耐久性が高い
  2. 建物は古いが立地が良い

※関連記事:【賃貸ビジネス全般に通用する】賃貸併用住宅の空室対策を徹底分析―データに基づく15のアイデア

建物自体の耐久性が高い

新築を希望する人にとっての判断基準は通常、「丈夫さ」と「新品」の二つですが、どの構造においても本当の耐久性は実際に認知されているより高いです。

法定耐用年数と実際の耐久の比較

よく法定耐用年数イコール耐久性と考えられていますが、それは誤解です。法定耐用年数とは、不動産の減価償却費用を計算するための国が定めた一律の年数のことです。ですから、例えば木造のアパートでも築22年を過ぎたからといってその建物が倒壊してしまうということは原則あり得ませんし、マンションに圧倒的に多いRC造(鉄筋コンクリート)の耐久は優に100年を超えます。ちなみに国土交通省の報告書ではRC造の物理的耐久性は117年と記されています。

もちろん不動産の寿命はお手入れや建材など多角的な要素に左右されますが、100年持つと考えれば、昭和につくられたマンション物件であっても、リノベーションでまだまだ集客可能です。特に、不動産市場における価値が低下している築40年~50年程度の物件でも、RC構造の物件は、金の卵に化ける可能性を大きく秘めています。(※ただし、築年数が古いことのデメリットの一つに、ローンが下りにくいことが挙げられます。)

ポイント:
会計上の耐用年数と、物理的耐久制度には乖離がある
法定耐用年数が47年と定められたRC構造でも、物理的には100年以上住める
③重量鉄骨、RC構造の物件は、古くても物理的な耐久が高いため、リノベーションに適している

建物は古いが、立地が良い

戦後1950年代に徐々に分譲形式のマンションが現れ始めました。当時はまだマンションの数が少なく、駅近の良い土地に建てることが可能でした。例えば、広尾、六本木、中目黒など、例えば高級住宅街の代名詞のように喧伝されている土地でさえ、今よりも比較的楽な条件で、分譲マンションが立てられていた時代です。

やがて分譲マンションの黎明期が1960年代前半に終わり、1960年代後半から大衆化されはじめると、東京の至る所にマンションが乱立しはじめました。東京の人口は増加の一途をたどり、バブルの狂乱とともに地価は高騰、もはや駅前一等地にマンションをお手軽に建てることは不可能な時代となりました。

今や、高級マンションの裾野は、武蔵境、豊洲等、都心から次第に離れた所へと移りつつあります。日本の人口減が続く中、東京の人口は外国人の流入や地方の出稼ぎなどにより増加の一途をたどっており、高級マンションの地方化は、今後しばらく続くものと予想されます。

さて、こうしたマンション建設の歴史を紐解くとお分かりの通り、実は、場所柄の良い優良マンション物件は「昭和末」ごろに建設されたケースが多く、これらは築30~50年を経過し、長いローンを組まずとも手に入りやすい価格帯に落ちてきてくれているのです。こうした物件は、やはり、リノベーションによって価値が化ける可能性を大いに秘めています。

ポイント:
①都心の築年数が古いマンションは、実は場所が良いケースが多い
②場所柄が良い物件は、リノベの方法次第では化ける可能性を秘めている

リノベ=入居率アップではない デザイン重視のリノベ投資とは?

さて、不動産投資の簡単な収益構造を計算で表すとしたら、端的に述べると「(家賃×入居率)-設備投資費」です。

単純な話、家賃をアップ、入居率をアップ、設備投資をダウン、ということを同時に行えれば、収益体系は劇的に改善されるわけです。不動産投資の難しいところであり、かつ面白いところでもあるのですが、たくさんお金をかけて闇雲にリノベや設備投資をしたからといって入居率がアップするわけでもなく、むしろコツを知ってピンポイントでリノベを行う不動産投資家ほど、長期的な利益を得る傾向にあります。

ではまず、デザインを重視する根本的な理由を見てみましょう。Suumoの調査では、賃貸契約者が不動産会社に何よりも「写真の点数が多い」ことを求めていることが明らかになっています。これはつまり、物件を探す人が不動産会社に掲載されている写真の数とそこから受ける印象で内見に行くかどうかを判断する割合が非常に高いことを暗示しています。

ここで難しいのが実際に内見にきて契約するかどうかの決め手には、間取りや立地、家賃などを含めた総合点が大事になることです。すなわちトータルで内見者の合格点に達するかどうかなのです。しかし、そもそも不動産会社のHP上で魅力的な写真を複数アップできなければ内見まで誘い込むことすら難しくなるので、やはりデザイン性を重視するというのは、不動産会社のHP上でページ訪問者の目を惹く意味でも、他の物件と差別化するという意味でも鍵となります。

ちなみに、内見後の賃貸物件を決める理由では、「内装カラーなどインテリア全般」を「ある程度重視・とても重視」している人が実は5割近くいます。なお、最重要視されているのが広さと間取りの使い勝手で、その他水廻りや構造なども決定理由の要因としては大きいです。

では、入居者にとって「かっこいい」「気に入りやすい」デザインとは何でしょうか?こうした市場行動を分析するためのデザイン、リノベーション分野の研究は特に不動産投資家や設計士によって日々行われており、ここでひとまとめにすることはできません。銀座線の沿線駅、学生街、商店街近く、等、ロケーションや広さなどによっても、顧客層は異なってくるため、それに合わせたデザインや嗜好の研究が必要になってくるからです。

ただし、概してデザインを重視したマンションのリノベを行うにあたって、内装に関わる以下の2点は抑えておくべき要点として知られています。

  1. 水回り

まず、初期投資を抑えつつ入居率アップを狙いたいオーナーは、床材のリノベから始めるのが得策です。上述の通り入居者となるターゲットの属性により本来リノベーションで力を入れるべき箇所は変わりますが、どんな層でも一定以上の効果があるのが床なのです。

まずなにより住宅の中で面積が最も大きい箇所のひとつが床で、その床を変えるだけで部屋の雰囲気を一変できます。体が接触する時間が一番長いのも床です。部屋のどこを見渡しても床は必ず目に入ります。必ず全員が使用するのも床なのです。

また、後の項で深堀りしますが、経年劣化によりリフォームせざるを得ないときも、オシャレかつ施工が簡単な素材を使うことで工事費を抑えられます。短期的にも長期的にも非常に効果的で、コスト面でもキッチンやお風呂場より圧倒的に手が出しやすいです。

コスト安で雰囲気を変えられるという意味では、壁もリノベに適した箇所の一つです。ただし、壁紙は床以上に部屋の雰囲気を一変させる力を持っていますが、素材で価値を生み出すのが床よりやや難しいです。床は素足で触れる機会もありますが、壁にずっと触れているというケースはあまりないからです。 また、オシャレにするためにビビットなカラーにしても万人受けしづらく、やはり壁は床よりリスクが高い投資とります。天井も同じで、どうせある程度お金をかけるのであれば、床材をリノベして、その良さをアピールする方が得策でしょう。

「夏は涼しく冬は温かい」を実現できる浮造りという床の工法について詳しく書かれた記事へ
ビビットなカラーのオシャレな部屋

床材を決めるときのポイント

床材のなかで住居用に使用される際に一般的なのはフローリング(複合フローリング、無垢フローリング)、カーペット、およびタイル床です。これら床材の各々のメリット、デメリットに関しては以下のように簡単にまとめます。

複合フローリング無垢フローリングカーペットタイル床床
踏み心地×~△
見栄え△~〇△~〇△~〇
価格(施工込)普通高い普通安い
耐久性△~〇△~〇
メンテナンス容易複雑容易容易

上記の表の通り、価格、デザイン、扱いやすさなどはトレードオフの関係にあり、いわゆる「一長一短」が不動産投資家の頭を悩ませませるわけですが、以下の4つの点は、特に不動産投資家が床材のリフォームを考えるとき、頭に入れておかなくてはいけないポイントとなります。

  • デザイン
  • 耐久性(床材の種類別耐用年数比較はこちら
  • 施工のトータルのコスト
  • 部分修復・リフォームのし易さ

まず、古い内装を新しくして集客を狙うことが目的ですから、デザインが瀟洒であったり、他社にない珍しいものであるとよいでしょう。実際、リフォーム会社などでは、OEM製品を使用したり、海外製のリフォーム材を取り入れ、他社との差別化をはかっています。

続いて、耐久性も大事です。安さを重視するあまりに低品質の床材を採用しても、入居者の入退のたびに原状復帰コストがかさむのであれば、リフォームの回数が増え、結局のところその分支出がかさみます。

施工のトータルコストというのは、材料費に加え施工費も含めたコストのことです。実際、床材を張り替えるときのコストは、メーカーのカタログに載っている金額だけでは収まらないケースがほとんどで、今ある床の撤去、巾木、工賃などを加味すると、往々にして当初の予算を上回ります。

最後に、部分修復・リフォームのしやすさに関してですが、将来的な床の張替えが必要になった時など、場合によっては床材の撤去が必要となり、その際に「取り外しが容易か」はかなり重要なポイントとなってきます。施工する業者も、後々の撤去のことまであまり考えないため、接着剤や釘などでべったりと床材をくっつけてしまい、10年後20年後に床が古くなって張替えが必要になった時、また膨大な「全張替」のコストが生じてきてしまうことがあるので要注意です。

壁を決めるときのポイント

「壁をリノベーション」する場合、本来は次の3種類の方法があります。

  1. 壁を取り壊して部屋を広くする
  2. 壁を設置して部屋数を増やす
  3. 壁の素材を変える

しかし、1と2はそこそこの広さのある物件であることが大前提であり、マンションやアパートの不動産投資家には不向きなリノベです。どちらかと言えば、家族が増えたから部屋が欲しい、子供が成人したから部屋を減らしたいなど、自身で購入した家を改築したいケースが多く、今回の集客率アップに繋がるデザイン重視型リノベーションとは趣旨が異なるため省きます。

不動産投資家の方が検討すべきは壁の素材を変えるという点です。まずはどのような壁の素材があるか全体像を把握しましょう。(種類が多すぎるのでリビングに一般的に使用されるものに絞る)

ビニールクロス漆喰塗り壁珪藻土塗り壁
調湿性×~△
見栄え△~〇
価格1,000~1,500円/㎡4,000~7,000円/㎡3,000~6,000円/㎡
張替え/お手入れ5年10年10年
施工難易度低い高い高い

床材と同じで質と価格はトレードオフの関係にあります。そしてこの中で一番世に流通しているのがビニールクロスという壁紙です。安価で張替え作業が簡単なところが長所で、さらに柄や色が選び放題というデザインの豊富さ、濡れた雑巾や洗剤にも強く掃除が楽というのもプラスポイントです。

デメリットは調湿性です。基本的にビニールという素材に調湿性はなく、この性能が低いということは湿気が溜まりやすく、カビやダニの発生率を高めてしまいます。最近では透湿性を備えたビニールクロスも出てきていますが、塗り壁系と比べると調湿性は劣ります。その他にも部分補修がしづらい、耐久性などのデメリットが挙げられ、やはり一長一短です。

逆に重厚感のある高価な漆喰壁は、見栄えや素材自体に高い性能がある反面、コストが圧倒的に上がってしまうのが難点です。通常ビニールクロスは施工費含め1,000~1,500円/㎡ですが、漆喰壁の場合は4,000~7,000円/㎡が相場と言われています。それは素材の価値だけでなく左官の手が必要なほど施工難易度が高く、施工期間も長いためこの価格帯となっています。

やや高めならまだしもここまで価格差があると、不動産経営者にとっては極めて手の出しづらいリノベーションとなるでしょう。富裕層がターゲットの場合は当然部屋の品質を突き詰めるのも一つの戦略ですが、多くの場合そこまで家賃を高く設定するのは現実的ではありません。

そのような一般的なケースでは、安価なビニールクロスを採用し、時代に合わせて変化する入居者のターゲット層を見極め、短期的に壁紙を張り替える覚悟でオシャレなデザインの壁紙を貼る方がより堅実で的確な戦略となります。

なお、ビニールクロス自体の寿命は一般的に10年~15年とも言われていますが、変色や汚れが出始めるのが大体5年程度と言われていますので、5年ペースで変えるくらい低めのハードルを設定しておくと、後で落胆することがないでしょう。

水回りを決めるときのポイント

水廻りというのはキッチン、浴室、洗面、トイレのことです。仮に洗面所だけをリノベしてもリビングの景観に変化があるわけではなく、物件の一部のデザイン性を高めたに過ぎませんが、先ほどの項目のアンケート調査でもあったように水回りの設備が契約の決断に大きく関わるため、古臭さを消して清潔感を演出することはマストです。

ここで一つひとつの設備を取り上げるとキリがないので、水回りに共通するマメ知識と価格感を紹介します。

  • リノベ・リフォームはまとめて実施
  • 見た目のキレイさイコール劣化度合いと捉えない
  • 位置・サイズ変更は極力避ける

まずマメ知識として、水回りのリノベ・リフォームは別々に行わず、全てまとめて注文するとコストを抑えらることがあります。理由は、水回り4点セットのような形でセット価格で安く提供されているケースがあるからです。「今回はトイレ、次の入居者のときはキッチン」のように段階的にリノベするとトータルコストが高くつきます。

次に見た目のキレイさと劣化度合いは全く別物であることを理解しましょう。水回りはどうしても目に見えないところでジワジワと水漏れしているということもあり得ます。15年や20年が経過しているのであれば、見た目に関わらず水回りを一新することでセット価格の利点を得ることができます。

最後にもう一つコストを抑えるコツです。配管工事や間取り工事が強いられるようなリノベーションは費用が高額になります。確実な戦略を持った上でのリノベーションなら構いませんが、カタログを見てデザインが気に入ったからと考えなしに注文するのは安易ですので避けましょう。

最後に箇所別のリノベーション費用の相場をまとめます。原則、浴室とキッチンが高く、トイレと洗面台は安いです。

水回りの箇所別リノベーション相場

この記事を書いた人

田邉憲作

・1976年8月24日生まれ
・共同代表取締役
・内装工事業20年
【資格】
給水工事主任技術者