親が他界したあとの二世帯住宅 − 賃貸併用住宅化のために外せないポイント6つ

夫婦共働きがスタンダードになった昨今、家事や育児において親のサポートを受けやすい二世帯住宅はメリットの多い住み方のひとつです。しかし、二世帯住宅を持つ前に考えておかなければならないのは、「親世帯が使わなくなったあとどうするか」という問題。「二世帯住宅はなかなか買手がつかない」、「部分的に貸すことも難しく持て余す」といった評判を耳にし、購入を躊躇したり断念する方も少なくないのではないでしょうか?

同じ建物に2家族が生活することを想定して建てられた二世帯住宅は、実は賃貸併用住宅として活用しやすい物件です。一方で、実際に賃貸併用住宅化が簡単にできるか・できないかは、どのような設計で建てられた二世帯住宅かに大きく依存します。今回のコラムでは、親がいなくなったあとの二世帯住宅の活用方法、賃貸併用住宅化が容易になる二世帯住宅の設計時のポイントを紹介します。

一戸が空いた二世帯住宅をどうする?3つの選択肢

親世帯と自分世帯が住んでいた二世帯住宅で、親が他界したり介護施設に入居するなどの事情で一戸が使われなくなった場合、その住居をどのように活用するか。選択肢として考えられるのは以下の3つです。

  1. 売却する
  2. 子供世帯と同居するために空き家にしておく
  3. 賃貸併用住宅にする

1. 売却する

建物全体を売りに出すパターンと、親が住んでいた住居部分のみを売却するパターンがあります。玄関や水回りが共有の「同居型」と呼ばれるタイプの二世帯住宅だと建物を部分的に切り分けることが不可能なため、建物全体で売却することになります。二世帯住宅は一般的なマイホームよりも需要が少ないので、当然売却の難易度も上がります。一方、すべての生活スペースや設備が独立した「分離型」で建てられた二世帯住宅の場合、一戸だけを売って自分世帯は住み続けるという選択も可能になります。売却のしやすさと将来的な活用のしやすさを考えると、「分離型」で建てておくのが無難でしょう。

2. 子供世帯と同居するために空き家にしておく

最も手間もお金もかからない活用方法ではありますが、子供が親世帯と同じ建物に住みたいと思うか、また、祖父母が住んでいた古い二世帯住宅に入居したいと思うかは未知数です。もし入居するとなれば古くなった水回りなどの細かなリフォームは最低限必要になるので、そのための費用は用意しておく必要があります。

3. 賃貸併用住宅にする

自分世帯が同じ家に住み続けたい場合、親が使っていた住居部分を他人に貸すという方法もあります。つまり、マイホームと賃貸住宅が共存する賃貸併用住宅にするということです。新規に入居してもらうためには大規模な修繕やリフォームが必要になる可能性が高いですが、一から建てるのに比べればコストは低く抑えられるので、毎月の家賃収入で早期に回収することは難しくないでしょう。

賃貸併用住宅化を前提とした二世帯住宅 − 注意すべきポイント

二世帯住宅はもともと同じ建物の中に2つの住居をプランニングするので、賃貸併用住宅化するのは本来難しくありません。しかしこの「難しくない」というのは、将来的に賃貸併用住宅に転用する前提で二世帯住宅を設計した場合です。具体的に注意すべきなのは、以下の6つのポイントです。

  1. 「分離型」で建てる
  2. 共有スペースを作らない
  3. 自分世帯の住居スペースを50%以上にする
  4. 立地を精査する
  5. 賃貸併用住宅のメリット・デメリットを熟知しておく
  6. 賃貸併用住宅化した場合の収支シミュレーションをしておく

「分離型」で建てる

二世帯住宅のタイプには、玄関や浴室・トイレなど生活スペースが完全に別れている2つの家が壁で繋がっているだけの「分離型」と、共有スペースを持つ「同居型」があります。前出の3つの選択肢でも挙げたように、同居型だと売却だけでなく賃貸併用住宅化の難度も上がります。最初から完全に独立した形で二世帯住宅を設計することが、リフォーム費用・期間を少なく抑える秘訣です。

生活スペースだけでなく、電気・ガスメーターも分離して設置しておくことも忘れてはなりません。また、賃貸併用住宅における最も多いクレームが騒音になりますので、特に住居が接している壁側の遮音対策はしっかりと取っておきましょう。

賃貸併用住宅の成功例のギャラリー8

共有スペースを作らない

親との同居であれば家族が一堂に集まれるリビングなどの共有スペースは便利な設備のひとつになり得ますが、他人と住むとなったら邪魔以外の何者でもありません。完全にお互いのプライベートスペースが確保できる間取りにしましょう。

賃貸併用住宅の間取り図(一階)
二世帯住宅にも最適な共有スペースのない賃貸併用住宅の間取り図例

自分世帯の住居スペースを50%以上にする

二世帯住宅を購入する際は両親と折半、もしくは親が多めに出すというケースがほとんどで、自己負担額は軽減されます。ですが、後に親が住んでいた住居を他人に貸すとなると、多かれ少なかれ修繕やリフォームが必要になり、それは自己負担となります。

修繕が大規模になればすべてを自己資金でまかなうのは難しいので、ローンを利用することになります。住宅のリフォームに使えるローンは「リフォームローン」と「住宅ローン」の2種類。リフォームローンの多くは無担保型で金利が高めなので、必要資金が高額になる場合は住宅ローンを利用した方がお得です。賃貸併用住宅は自宅部分が50%以上だと住宅ローンを利用できるので、その条件に適うようにしておきましょう。

二世帯住宅における住宅ローンとリフォームローン

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立地を精査する

賃貸部分を他人に貸すとなった時に最も注意すべきなのは、その立地が入居者のニーズに合っているかどうかです。二世帯住宅を転用した賃貸併用住宅の場合、間取り的に入居者はファミリー層。子供がいる家族が生活する上で必要な施設が揃っているか(保育園・幼稚園、学校、病院など)、治安がいいか、買い物に不便はないか(スーパー、ドラッグストアなど)、といった点が重視されます。

また、将来発展の見込みがある地域や、需要が安定している地域はおしなべて空室リスクや家賃下落リスクが低くなるので、賃貸ビジネスに適していると言えます。もともと親が持っていた土地に建てた二世帯住宅を利用する場合、これらの条件を満たしているかをよく吟味し、立地が適さないときは賃貸併用住宅とは別の活用方法を検討する必要があります。

現実として、立地調査や空室対策、集客の敷居が高く躊躇してしまう方がほとんど。難しいことは一通りプロに任せることも可能です!

賃貸併用住宅のメリット・デメリットを熟知しておく

間取りや立地の条件を満たしていたとしても、賃貸併用住宅がどういったビジネスなのかをしっかり理解しておかないと、いざ貸した後に後悔することにもなりかねません。経験者の体験談を含めて事前にメリットとデメリットを調べ、納得してから実現に向けて動きだしてください。多くのデメリットは、事前に知っておくことで対策や心構えができます。賃貸併用住宅オーナーから見た代表的なデメリットは入居者からのクレーム、騒音、空室期間の家賃負担など。メリットは家賃収入、固定資産税が下がる、などです。

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賃貸併用住宅化した場合の収支シミュレーションをしておく

賃貸併用住宅のオーナーになる上で忘れてはならないのが、これがマイホームであると同時に不動産投資物件であるということです。二世帯住宅からの転用では初期投資が大幅に抑えられるため見落としがちですが、毎月の家賃収入と、ローン返済/委託管理料・保険料・原状回復などの経費/定期的な修繕費のバランスが取れているかのシミュレーションは必須。特にローン返済は、二世帯住宅建設時のローンとリノベーション時のローンが重なると負担が増えるので、現実的な返済額かを慎重に見極めましょう。

住宅ローンを返済中の場合は、住宅ローン残債とリフォーム資金を合わせた額を借り換えることができる金融機関もあります。住宅ローンはリフォームローンよりも低金利なので、借入金額が大きいほど有利に働きます。借り換え手数料や諸経費は金融機関によって異なるので、手続き前にしっかり比較検討してください。

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この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士