自分はあてはまる?賃貸併用住宅で後悔するパターンとしないパターンの具体例

賃貸併用住宅を建てた方の中には、「こんなはずじゃなかった」「思っていたのと違った」という後悔や、その選択を失敗と捉えるような声もあります。自身の住居スペースと他人が生活する賃貸スペースが同一の建物内にあるというのは、生活がスタートしてみてその実際を知ることが多いのが実情でしょう。もとより賃貸併用住宅というのは、サラリーマンの給与収入などの返済原資があれば事業用ローンよりも金利が低い住宅ローンを組んで始められる、不動産投資より圧倒的に敷居の低い優秀なビジネスモデルです。成功すれば家賃収入で家が建ち、さらに老後の資産形成も可能な、突出した富裕層向けではなくむしろ中間層向けのものです。

賃貸併用住宅が備える本来の魅力を存分に享受するためには、思い込みでのプランニングや理想面を追求するばかりでなく、様々な面からの事前検討が重要です。その際には、メリットのみでなくデメリットまで含めて思案することが失敗しない秘訣と言えるでしょう。

マイホームは人生で一番大きな買い物となる場合が多く、誰しも思い入れは強いもの。建てたあとに残念な思いを残さないためにも、どういったケースが後悔につながってしまうのか、後悔しないためにはどうすれば良いのか、それぞれを紐解いて見ていきましょう。

後悔するパターン①マイホームの延長という意識でいた

「マイホームを建てるついでに賃貸ビジネスも行う」という意識でいたがために、実際に入居者が入り生活を送るようになると、思いのほか入居者の生活音が気になりイライラしてしまった、というケースはよくあります。あるいは、家主であるオーナー側が生活音を聞かれたくない、家主だから騒がしくしてはいけないとなるべく音をたてないようにしていたので気疲れしてしまった、というケースもあります。

これは、事前に賃貸併用住宅の特徴をよく把握し、事前に心構えをしておくことが大事になります。「思っていたのと違う」と「想像の範疇」では、別世帯と住宅を併用することによるストレスの量が同じだとしても、感じ方が変わってきます。

また、事前に後悔するケースを知っておくことで、心構えだけでなく具体的な対策を講じておくことも可能です。例えば、設計段階から動線を意識して分ける、水回りの設備を隣接する壁側に設けないなどの工夫で、入居後のストレスを回避できます。設計士や住宅メーカー、不動産会社などの専門家、すでに賃貸併用住宅を建てた経験者らの意見を参考にしながら、懸念がある場合はそれらを丁寧に払拭していくことが大切です。

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賃貸併用住宅の間取り図(一階)
当社の生活動線を考えた賃貸併用住宅の間取り例

後悔するパターン②原状回復コストや維持管理コストを軽く考えていた

原状回復コストを失念して試算していたというケースは多々ありますが、仮に試算に組み込んでいたとしても、「何となくのイメージで捉えていた」、「あまり深く考えていなかった」ということも実はよくあります。

国土交通省住宅局が定めるガイドラインによると、原状回復は以下のように定義されています。

原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

国土交通省住宅局:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)

また、この原状回復の定義の前段に、当該ガイドラインのポイントとして、

社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし…

との記載があります。原状回復の示すところは、入居者(賃借人)が普通に生活していて起こる設備の摩耗や経年による劣化を「借りた当時の状態に戻すものではない」と明記されているのです。

よって、入居者(賃借人)がオーナー(賃貸人)の了承を得ずに過度なカスタマイズを行っていた、不注意で床に大きな傷を残してしまった、などの場合には入居者負担で元の状態に戻すことになりますが、それ以外の、日常生活内で発生する汚れや経年による劣化は賃貸人の責任でクリーニングや修繕を行うことが原則なのです。

あくまで目安ですが、ハウスクリーニング費用の相場は下記の通りです。

間取りクリーニング費用
ワンルーム、1K15,000円~30,000円
1DK、1LDK20,000円~40,000円
2DK、2LDK30,000円~50,000円
3DK、3LDK50,000円~80,000円

次に、担当会社や汚れの程度により費用にばらつきは生じますが、室内のスポットごとのおおむねの相場です。キッチンや水回りは汚れが目立ちやすい一方で、衛生環境は入居者が家を決める際に重要視するポイントでもあります。適宜クリーニングを行うことも検討に値するでしょう。

場所費用相場
浴室12,000円~18,000円
キッチン12,000円~20,000円
レンジフードや換気扇7,000円~13,000円
トイレ6,000円~9,000円
洗面所8,000円~10,000円
水回り15,000円~75,000円(箇所の数による)
床のクリーニング・ワックスがけ8,000円~15,000円(6畳あたり)
エアコン8,000円~16,000円

また、築年数を経ると建物は消耗していきます。賃貸ゾーンの入居者を募るためにも定期的な維持管理、設備のリフォームが必要となります。建物の外観に大きく関わる屋根の修繕、外壁の洗浄・修繕、内観では水回りの修繕・取替などは、だいたい15年の間に一度の頻度でメンテナンスが必要です。

「リフォームはだいたいいくら」というおおまかな見積もりではなく、大掛かりなメンテナンスは何年ごとに検討するのか、どの程度の設備を新たに導入する必要があるのかなど、なるべく具体的なプランに基づき各種コストを高めに想定して資金計画を組み、そのための積立を行うことが賢明です。

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後悔するパターン③入居者が集まらない

賃貸併用住宅は、建物の一部を賃貸スペースとして人に貸すことを前提にした住宅です。周辺マーケットにおいて借り主となるであろう属性(学生、単身、ファミリーなど)と、賃貸部分の間取りや賃料がマッチしているか、賃料を払って住みたいと思える仕様になっているかを考える必要があります。

例えば、学生が多く飲食店が豊富、繁華街までのアクセスがよいなど20~30代に好感触な要素が多いエリアなのに、ファミリー向けの間取りでその分家賃も高いとなると、なかなか借り手がつかないのは当然です。逆に、閑静な住宅街で緑が多いなど子育てファミリーに適した立地なのに、間取りが1Kでは手狭でファミリー層には敬遠されるでしょう。

上記はやや極端な例ですが、賃貸併用住宅は住居を元手に不動産ビジネスを行うわけですから、事前のマーケット調査は欠かせません。賃貸併用住宅を建てると決めたら、周辺地域の調査とそれに一致する入居希望者の属性イメージをつけ、間取りや仕様を検討しましょう。

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後悔するパターン④思ったように賃貸経営が軌道に乗らずローンの返済が負担

当然ながら、借り手がつかなければ家賃収入は入りません。賃貸併用住宅は2世帯以上が暮らす仕様になっているわけですから、一般的な戸建て住宅よりも建築コストは高くなり、自己資金が潤沢である場合を除いて金融機関からの借入金もその分増すことになります。空室期間ができて家賃収入が安定しないと、一般よりも高いローンの返済額がのしかかることになるのです。空室期間が発生してもオーナー自身の資金である程度の期間をカバーできれば問題ありませんが、長期化したり資金面で不安がある場合には、月々のローンの返済は負担となるでしょう。

上記③のケースとも関連しますが、賃貸併用住宅を建てる際には、周辺エリアの特性と潜在的な入居希望者のニーズを把握し、賃貸で家を探している人々にとって魅力と感じる間取りや設備になっていることが必須条件です。その上で、賃貸併用住宅は賃貸ビジネスですから、楽観的な展望ではなく、数十年単位の息の長いビジネスを行うという長期的な視点をもってローンの返済計画を組む必要があります。

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以上、ここまでは後悔するパターンを見てきました。

しかし冒頭で述べたように、賃貸併用住宅は、賃貸ゾーンの運営が成功すれば家賃収入でマイホームが建つという非常にメリットのある選択肢です。では、どうすればそのメリットを最大限に得て、失敗や後悔とは程遠いマイホームを手にすることができるでしょうか。ここからは、賃貸併用住宅の魅力を活かす後悔しないパターンを見ていきましょう。

後悔しないパターン①「大家だから」と意識しすぎない。管理運営はプロに任せる

賃貸併用住宅は、サラリーマンなど不動産ビジネスを主軸にしている方以外でも敷居が低く、始めやすい賃貸ビジネスであることは先述のとおりです。初めての大家さんとなれば、あれこれと気になることも多いかもしれません。しかし、後悔するパターン①でも少し触れたように、「オーナーだから」と必要以上に意識をしているとせっかくのマイホームでの暮らしに余計な緊張を持ち込むことに。

賃貸ゾーンの管理運営は、賃料回収など会計業務の他、各種の法定設備点検、契約更新手関連、原状回復に関する助言など多岐に渡るため、業務委託料を払って専門会社に任せることが一般的です。もちろん入居者との折衝や契約に関わることの一切を含むので、オーナー自身が入居者との交渉の矢面に立つ必要はありません。逆も然りで、もし貸主として入居者になんらかの申し入れをしたい場合も、管理会社を通して伝えてもらえることになります。入居者と良好な関係を築くことも大切ですが、オーナーとして我慢したり意識しすぎず、任せるところはプロに委託して運営していくのが得策です。

後悔しないパターン②賃貸スペースはビジネスと割り切り、間取りは入居者のニーズ優先

後悔するパターン③で述べたように、賃貸スペースが周辺エリアにおける入居希望者の属性と合致した間取りや仕様になっているかは、賃貸併用住宅運営の成否を分ける大きなポイントです。

もちろんマーケットに引っ張られすぎず、家主としてどんな方に住んでもらいたいか、どの程度の間取りでどれくらいの家賃収入を求めるか、などを優先して検討することも可能ですが、行き過ぎると入居希望者とのミスマッチを生む結果に。賃貸スペースに借り手がついて家賃収入が発生してこそ、賃貸併用住宅のメリットは発揮されます。不動産ビジネスを行う意識をもち、マーケットの特性から判断される潜在的な入居者ニーズにそって間取りや家賃幅を吟味することが成功の秘訣といえるでしょう。諸条件を整えて入居希望者の母集団を増やすことは、継続的に家賃収入が得られることにつながり、後悔しない賃貸ビジネスの結果をもたらすはずです。

後悔しないパターン③ローン繰り上げ返済で早めに資産形成モードにチェンジ

例えば、満室稼働が続いて家賃収入が想定を上回っている、入居者に綺麗に使用され見込んでいた原状回復コストより低くおさまった、など、当初に立てた事業計画より運営が順調に進み資金計画に余裕が生まれたとしたら、あなたならどうするでしょうか。場合によっては、全体収支を把握した上で、そのゆとり分を子どもの教育資金に充当したり、家族旅行や少しの贅沢を検討するかもしれません。もちろん、家賃という新たな収入増により家計の安定につながることは賃貸併用住宅のメリットのひとつです。

一方で、このままさらに【後悔しないパターン】を手堅くし、賃貸併用住宅のメリットを得るためには、可能な範囲でローンの繰り上げ返済に充てるというのも賢明な判断です。

繰り上げ返済分は元金分の返済となるため、元金の返済を早めるとともに、利息額の返済負担を和らげるという非常に大きな効果をもたらします。住宅ローンの返済が終われば、それ以降の家賃収入はそのまま月々の固定収入となるため、老後の資金として貯蓄に回したり、さらにそれを運用することでさらなる利益を生むことも可能になります。

人生100年時代の言葉が踊り長寿化が進む一方で、公的年金の受給年齢引き上げが話題となるなど、これからマイホームを購入しようとする世代にとって将来の経済不安をいかに解消するかは大きな課題です。賃貸併用住宅にはマイホームの購入が資産形成につながる大きなメリットがあり、それを活かさない手はありません。

詳しくは以前解説した「賃貸併用住宅にまつわるお金のハナシ − 必要な予算と運用シミュレーション」の記事を参考にしていただきたいのですが、注文住宅と賃貸併用住宅では老後の資産形成において巨大な差が生じます。ちなみにこれは、年間20%の空室期間が出るという現実的な条件を組み込んだ上での差です。

注文住宅購入時のお金のシミュレーション
賃貸併用住宅購入時のお金のシミュレーション

後悔しないパターン④ライフステージの変化を見越して選ぶ意識を持つ

これまで繰り返し述べているように、家を購入する際、一般的にはローンを組み、数十年という長期にわたって返済していくことになります。その間には、子どもの成長、転勤や転職、あるいは働き方そのものを変えたくなったり、親との同居を検討するなど、ライフステージとともにご自身が求めるライフスタイルも変化していくことでしょう。しかし、一旦家を購入すると、そう簡単に住み替えできるものではありません。

その点、賃貸併用住宅であれば、ご自身が転居する際には自宅スペースを賃貸に出しさらなる家賃収入を得る、仕事面で独立して事務所を構えたり、親世代と同居を考える際には賃貸スペースをその用途に充てるなど、その用途を柔軟に広げることができます。もちろん、賃借人と取り交わした借家契約の内容次第であり、いつでも可能というわけではありませんが、ある程度の期間をもって準備をすれば、その時々のライフステージにあった使い方ができるのです。

賃貸併用住宅の特徴を捉え、今後の人生設計に応じた使い途を考慮して選ぶ。これも後悔しない賃貸併用住宅の活用法と言えるでしょう。

まとめ

一般的な戸建て住宅であれ、賃貸併用住宅であれ、家は人生の大きな買いものであることに違いありません。せっかくマイホームを建てるなら、後悔や失敗とは無縁の納得のいく形で実現したいものです。賃貸併用住宅のメリット、デメリットは本コラムでご紹介したもの以外にも多岐に渡ります。賃貸併用住宅を検討している方は、将来的にぜひその魅力を存分に実感できる選択となるよう、不動産会社や住宅メーカー、あるいはフィナンシャルプランナーなど専門家の意見を交えつつ、包括的な視点から勘案することをおすすめします。

この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士