賃貸併用住宅にまつわるお金のハナシ − 必要な予算と運用シミュレーション

自宅部分と賃貸部分をひとつの建物に併せて作ることで家賃収入をローン返済に充てられる賃貸併用住宅は、新しいマイホームの持ち方として注目されています。継続的な家賃収入が魅力で税制面でのメリットもある反面、建築コストやメンテナンス費用がかさむのも事実。2世帯住宅を建てるようなものですから、1家族が単独で住むためのマイホームよりもお金がかかるのは明白で、金銭面で二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、賃貸併用住宅に興味がある/賃貸併用住宅を始めたいと考えている方が最も気になるであろうお金のハナシを、シミュレーションを交えながら解説します。

始めるための条件と必要なお金

賃貸併用住宅は低資金で始められる不動産経営であり、新たな資産形成方法として多くの方が選択しています。不動産経営を職業としていない人でも、サラリーマンなど安定した収入があってローンが組めれば始められるため、初心者にとって敷居の低い方法だと言えます。

では、安定収入があれば誰でも賃貸併用住宅を購入できるのか?と問われると答えはNOです。ローンの審査やその後の運用を考えて、弊社では現実的なラインを【世帯年収700万円以上】に引いています。ただしこの世帯年収700万円以上というのは土地から購入の方にのみ当てはまり、土地持ち・現金比率が高い方は世帯年収がもっと低くてもスタート可能です。

また、賃貸併用住宅の【頭金の相場は全額の10〜30%】と言われています(金融機関や物件によって異なる)。頭金は購入の絶対条件ではありませんが、ローンの審査に通りやすくなったり、のちのちのローン返済の負担を軽くできるので、相場程度を用意するのが理想です。

購入額頭金の相場
4000 万円400〜1200 万円
5000 万円500~1500 万円
6000 万円600~1800 万円
7000 万円700~2100 万円

所有している土地があればさらにハードルは下がりますが、土地があればどこでもいいという訳ではなく、ターゲット層に合致した立地でないと空室リスクが上がるので注意が必要です。賃貸併用住宅建設に必要な土地の広さは、【約45坪以上(駐車場込みの場合は約60坪以上)】が目安です。

コスト回収のために押さえるべきポイント

賃貸併用住宅は賃貸部分が自宅と同じ建物になるため、一般的な不動産投資に比べて住宅ローンを利用することで税制的に優遇を受けることができます。賃貸併用住宅だからこそ利用できる制度を積極的に使い、空室を出さない工夫をすることが、早期のコスト回収と安定した運用につながります。

自宅部分を50%以上にする

賃貸併用住宅であっても、自宅部分の面積を半分以上にすることで、住宅ローンを利用することができます。住宅ローンはマイホームを建てたり購入するためのローンで、不動産投資ローンに比べると

  1. 融資の審査が通りやすい
  2. 金利が低い
  3. 税の優遇を受けられる

というメリットがあります。

不動産投資ローンと住宅ローンの金利を比較してみましょう。不動産投資ローンが返済を家賃収入に頼るのに比べ、住宅ローンは給与収入から返済するので、融資元にとって貸し倒れリスクが少ないことから金利が低く設定されています。

不動産投資ローンと住宅ローンの金利比較

上の例のようにパーセンテージで比較するとさほど差がないように見えますが、仮に1%の金利の違いでローンを借りた場合、返済額にどのくらいの差が生まれるのか計算してみます。

A:元本4,000万円、金利1%、期間35年
B:元本4,000万円、金利2%、期間35年

実際は返済方法の違いや金利の引き上げ・引き下げも影響しますが、ここでは分かりやすく35年固定金利とします。

A:総返済額 約4,743万円(金利総額 約743万円)、毎月返済額 約11.3万円
B:総返済額 約5,566万円(金利総額 約1,566万円)、毎月返済額 約13.3万円

借入金額が大きいため、わずか1%の違いでも35年間の金利総額で823万円、毎月返済額で2万円と収支に大きな差を生むことになります。

また、住宅ローンは「住宅ローン控除」という税制優遇制度を受けることができます。毎年、年末時点の住宅ローン残債の1%を10年間にわたり所得税から控除してもらえる制度で、控除対象となる最大残債は4000万円、つまり最大でその1%の40万円(10年間で400万円)の還付が受けられます。正確には賃貸部分を除いた自身の居住部分のみが適応範囲ですので、50:50の賃貸併用住宅の場合は住宅ローン残債の50%のみが1%控除の対象と見なされます。

とは言え、50%の1%でも毎年最大20万円の還付になり得ますのでバカにはできません。さらに、支払った所得税が控除額を下回る場合は住民税から差し引くこともでき、借入金返済の大きな手助けになってくれる制度です。

※参考:国土交通省「すまい給付金 住宅ローン減税制度の概要」 

横割りなら1階部分を自宅にする

賃貸併用住宅の間取りには大きく分けて横割りと縦割りの2種類があり、横割りにした場合、自宅を1階にした方がコスト面でのメリットが大きいです。なぜなら、賃貸市場では上階の方が価値が高く、家賃を高めに設定できるからです。

賃貸併用住宅の間取りの種類一覧

※関連記事:【間取り図あり】賃貸併用住宅の切り分けパターンと生活動線を考えた間取りとは?

自分の希望より借主の希望を優先する

賃貸併用住宅を安定的に運用し、確実にローンを返していくために最も重要なのは、とにかく空室期間を作らないことです。そのためには、少なくともローン返済を終えるまでの35年間、あなたの賃貸併用住宅が“他の人が住みたいと思える物件”であり続けなければなりません。

国土交通省の住宅市場動向調査(平成30年度)によると、賃貸住宅への入居を後押しした理由で上位を占めたのは以下の3項目とされています。

  1. 価格/家賃が適切だったから(50%)
  2. 住宅の立地環境が良かったから(43%)
  3. 住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから(33%)

つまり、この3点は魅力的な賃貸物件であるために外せない条件であり、これらを満たしていれば長く空室期間が空いてしまうリスクはかなり抑えられます。

立地環境は、入居者の属性によってニーズが変わってくるので、探した土地があなたの賃貸併用住宅のターゲット層に合致しているかを見極める必要があります。ファミリー世帯なら周辺地域の治安、徒歩圏内に学校・公園・スーパーなどがあるか、アクセスしやすい場所に病院があるか、などを重視する傾向が強いでしょう。単身者なら、駅からの距離、近くに便利な施設・飲食店があるか、など重要ポイントが変わってくるはずです。

賃貸住宅は住み替えが容易なため、物件探しの際に新築や築浅のみを条件にする人も少なくありません。物件が新しい数年間は問題ないでしょうが、ローンを35年間払い続けるためには、築20年30年となって新築物件と肩を並べても遜色ない/入居したいと思える魅力ある物件でなければなりません。そこで重要なのが、“時代に左右されないデザイン”を取り入れることです。

ヨーロッパの都市には、古い建物を残して内装を部分的にリノベーションし、人が快適に住み続けられるようにしたアパートメントがたくさんあります。そういった建物は経年変化によって魅力が増し、新築物件より家賃が高くても人気があることも少なくありません。あなたの賃貸併用住宅に必要となるのは、時代に左右されず、万人受けし、かつ他の物件と差別化できるデザイン。そのようなデザインが土台にあり、古くなっても味が出る素材を使った住宅は、少しメンテナンスを加えるだけで魅力をキープできるのです。

運用シミュレーション

では実際に、賃貸併用住宅を購入し、運用がスタートしたら収支はどのようになるのかを具体的にシミュレーションしてみたいと思います。頭金700万円+土地から購入した場合の例です。

賃貸併用住宅 収支シミュレーション(中部エリア、ファミリー向け物件)

土地から購入したとしても、家賃収入との相殺でローン返済の負担を大幅に減らせるのは賃貸併用住宅の大きなメリットといえるでしょう。

次に、購入からローン完済、さらにその後まで長いスパンで収支を見てみます。こちらは、単独世帯用のマイホームを購入した場合と比べてみしょう。条件は、借入金4000万円(借入期間35年)、金利1%(35年固定)と上と同様です。妻は下の子供が幼稚園入園後から働き始めると想定し、子供2人は小学校から高校まで公立に通って国立大学に進学するものとします。

賃貸併用住宅購入時のお金のシミュレーション

年20%の空室と築年経過後の家賃下落といったネガティブ要素を勘案しても、かなりゆとりのある生活が実現できます。ローン返済が終わったあとは年金だけでなく賃貸収入があるため、生活費だけでお金が消えるという事態は避けられるでしょう。90歳時点でも貯蓄が2500万円近く残るので、子供が私立の学校に通ったり、急に病気になって医療費がかさむなどのトラブルが起きた場合も、金銭面での不安はかなり軽減されるはずです。

注文住宅購入時のお金のシミュレーション

こちらは一般的な注文住宅を購入した場合です(借入金3500万円の設定)。退職時に2000万円程度の貯蓄があったとしても、ゆとりある老後を送りたいと考えると、70代後半で貯蓄がマイナスに転じます。ゆとりある老後の生活費と平均的な老後の生活費の間には10万円程度の開きがある(*)ので、倹約すればこのシミュレーションの限りではありませんが、引退して時間があるのに趣味や娯楽、旅行などにお金をかけられないのは寂しいかもしれません。

参考:公益財団法人 生命保険文化センター「リスクに備えるための生活設計」

まとめ

退職後の年金収入だけでは心許ない部分を、うまくカバーしてくれるのが賃貸併用住宅です。実際購入する場合に必要なお金や、運用後の収支など、具体例からイメージをつかんでいただけたのではないでしょうか。コラム内で登場したシミュレーションはあくまで平均的なモデルです。購入を検討される際は、賃貸ビジネスであるということを念頭に置き、メリットだけでなくデメリットも知った上で綿密なシミュレーションを行うことをオススメします。

※関連記事:賃貸併用住宅によくある失敗5選 ― 始める前に知っておくべき事例 賃貸併用住宅の知られざるデメリットとは一体?対策と特長を徹底解説

この記事を書いた人

矢澤佑規

・1982年10月7日生まれ
・専務取締役
・建築不動産業界歴20年
・不動産賃貸オーナー
【資格】
二級建築士、宅地建物取引士